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ACE
 突発にも程があるカティ&コーラサワー小話。(え?)


   ***






 いつもいつも喧しいその男がその日はやけに大人しく、珍しいこともあるものだとふと視線を留めてみれば、その男はただただぼけっと宙を眺めていた。その視線の先を追っても、あるのは本当に、壁一面の硝子に遮られた大空だけ。……パトリック、と、カティ・マネキン大佐は眉をしかめてその名を呼んだ。
「何をぼうっとしている、――聞いているのか、パトリック!」
「――え? あれっ、大佐」
「何だ、そのとぼけた返事は。降格されたいのか貴様」
「え、いやそんな、勘弁してくださいよぉ!」
 どうやら本気で聞こえていなかったらしい。あげく、途端に涙目で訴えてくるのがさらに鬱陶しい。そう視線に込めて思いきり睨みつけてやると、男はいっそう肩を竦ませた。あの、そのですね、としどろもどろに呻く姿に、これが我が軍のエースかと呆れ返らずにいられない。時間の無駄だと踵を返しかけた時になって、ようやくまともな返答が返ってきた。
「思い出してたんですよ」
「……思い出していた? どうせまた何処かの女――」
「いえ、そうじゃなくて、ガンダムとの戦闘」
 カティは思わず口を噤んだ。
 あまりに意外な返答だったからだ。
「ほら、あいつら妙な粒子のせいで、記録もろくに取れないじゃないですか。だから相手の動きの癖とか読もうにも、この目で見たぶんでしか分析できないんスよ――まあ、取れてたとしてもあんまり当てにはしないんですけどね、オレ。もともと自分の勘を信じるっつうか」
「…………」
「もうちっとなー」
 赤色の強い、癖のある髪をがしがしと掻き、視線を横に泳がせて彼は言う。
「もうちっと戦えたら、」
 その軽い口調とは全く異なる、
「ぶちのめしてみせるのに」
 ――鋭い眼で。
「…………」
 なるほど、と頭のどこかで得心する声が聞こえた。
 軽い言動のせいで違和感を生じさせるものの、この男が世界に並ぶ3国家群の1つ、このAEUのエースとして知られているのは事実である。実力なき者が軽々しく名乗れる称号でも、ましてや名乗らせる甘い軍でもない。有史以来最も誇り高き歴史を持つこの軍、その中で最強を名乗ること、それには確固たる理由が存在しなければならない。
 その理由の片鱗が今、見えた気がした。
「あれ」
 こちらの視線に気づいた男が、ふとまばたきをして顔を向ける。その瞬間にはもう、あの眼光は消えていた。いつも通りの笑みがにんまりと形作られる。
「何すか大佐ぁ、ひょっとして見とれちゃいました?」
「戯け」
 その変わり様があまりに見事だったので、殊の外ぴしゃりと言ってやった。男はいつぞやのように目をまんまると見開くと、殴られてもいないのに、両の頬を包んだ。



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 昔、「たまには書いたことないキャラを書いてみよう」と実験的に書いてた小ネタのひとつでした。00屈指のネタキャラだけど実は脱いだら凄いんです的な、そんなキャラだと妄想してた時もありました、コーラサワー氏……(笑)。いえ、本編のあれもあれで実に魅力的でしたが(重すぎる00のシナリオにおいて文字通りの清涼剤でした)。
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