※当方は、ニルアレ・ハレアレ・アレマリを応援しています。
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小説4巻を読む前に投下。
実験的に書いてみたライアニュです。地雷な方はさくっとスルーしてください。別に問題ないよ、な方だけ読んでいただけたら幸いです。
実験的に書いてみたライアニュです。地雷な方はさくっとスルーしてください。別に問題ないよ、な方だけ読んでいただけたら幸いです。
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初めて顔を合わせたときの印象は、一声で言えば「良い女」だった。
遠巻きに見てもわかるその美貌、プロポーションの良さ。それに加え、言葉や仕草の端々から滲む教養の深さ。なおかつそれをひけらかすこともない、控えめな振る舞い。どれもこれも実に好ましい。
「ロックオン・ストラトスだ。あんたの次に日が浅い新入りだが、」
よろしく、と差し出した手を、彼女――アニュー・リターナーは、二、三まばたきをした後で「ええ」と微笑み、そっと握り返した。
手袋越しに、やけにひんやりとした感触がしたのを覚えている。
第一印象からして最高に近い彼女だったが、それ以上の好感を持ったのは、それからしばらくしてのこと。
ブリッジに向かう途中で偶然出くわし、共に目的地に到着したときのことだ。
「――グレイスさーん、ちょっと見てほしいところがあるですー」
ドアが開くと同時に、テロリストの艦にはとても似つかわしくない、明るい声が響いた。ミレイナ・ヴァスティ、わずか14歳にしてメカニックとオペレータを兼ねる優秀な少女だ。優秀なのは結構だが、そんな年齢の子供に戦闘行為のサポートをさせるのもどうなのかねと、ライルとしては斜に構えずにはいられない。
なに?と優しい声で少女のもとへ向かったのは、フェルト・グレイス。鮮やかな桃色の髪を束ねる彼女は、ミレイナに対しまるで姉のように接している。例の1件以来、どうも避けられていると思うのは気のせいではないだろうが、もともとそのつもりであの悪戯を仕掛けたのだから、こちらにとっては問題ない。
そんなライルの思いなど露知らず、アニューは姉妹のようなふたりに微笑ましい視線を向けている。
「どうしたの、ミレイナ」
「此処のデータ、最近上書きされちゃったみたいで、元の日時がわからないんですう」
「あ、……それは、ロックオンが生きてた時のだから――」
そこでフェルトは口を噤んだ。
目を瞠るミレイナに、……4年以上前のことよ、と視線を伏せて答える。その声は低くわずかに震えていて、彼女の傷が未だ癒えていないことを物語っていた。ミレイナも事の次第は知っているのだろう、……そうですか、とだけ答え、自然と話題を明るいものに切り替える。こういう才能も少女はきっちり持っている。
ふたりはそうして別の議論に移ったが、「彼女」だけは違った。
「……あの、」
薄紫色の頭がわずかに上向いて、こちらを見る。
彼女の言わんとすることがライルには手に取るようにわかったが、ここで答えるのは好ましくないだろう。後で話すよと囁き、ブリッジでの用件を先に済ませる。その後、行きと同じく通路を並んで進みながら、ライルは苦笑と共に切り出した。
「“俺”が生きてたってのはどういうことだ、って話だろ?」
「……ええ」
「彼女達が言ってたのは俺のことじゃない。俺の兄さんのことなのさ」
「お兄さん?」
紅い瞳がぱちりと瞬きをする。
後にして思えば、こうもあっさりと兄のことを口に出来たのは、彼女が兄に会う可能性がもはやゼロだったからだろう。
「もともと、此処には俺の兄が居てね。ロックオン・ストラトスっていうのは、兄さんが名乗ってたコードネームなんだ」
「――それって、」
事情を説明するのにそれ以上の言葉は必要なかった。彼女はさっと表情を変えると、ごめんなさい、と沈痛な面持ちで言う。良いよ、気にしなくて。ライルは肩をすくめて笑った。
だが、その出来事を境に、自分のほうが彼女のことを意識し始めたのは確かだった。
“ロックオン・ストラトスとは、今ここにいる男のことではないのか”。
そう、彼女にとっては、自分こそが『ロックオン・ストラトス』に他ならない。
ライルが「ニールの弟」なのではない、
ニールが「ライルの兄」なのだ。
何しろニールを知らないのだから当然の話だ。もし彼女がずっと前からこの組織に参入していて、兄とも面識があったなら、やはり皆と同じようにライルのことを見たのだろう。だが実際は違う。彼女は兄を知らない。だから兄との比較など一切含めない瞳でライルのことを見た。俺のことを見てくれた。
それはライルにとって非常に都合が良く、そして心地良い視線だった。誰もかれも兄を前提に接してくるこの艦では、特にそれは救いになった。
その眼差しをずっと受けていたいと考え始めるまでに、さほど時間はかからなかったと思う。
――だから。
「ねえ、あなたのお兄さんのことを教えて?」
薄暗い部屋の中、他ならぬ彼女の口がそう言葉を発した時、ライルは大きな落胆を覚えた。
あんたもなのか、結局。
俺がこうして目の前に居るのに。あんたは今、俺の腕の中に居るのに。なのに何で会ったこともない兄さんのことなんか気にする? 胸中の波をどうにか押し殺そうと、ライルは大きく嘆息した。
「――教えるほどの思い出なんか無えよ。ずっと寄宿舎にいたから」
半分は本当で、半分は嘘だった。寄宿舎に居たのは本当。けれど、物心つく前に家を離れた訳ではない。小さかった頃の兄との思い出はそれなりにあった。
比べられ続けてきた思い出が。
こちらの気の持ち様だとは解っている。眼前のこの女なら、話して聞かせたところで自分を見る目は変わらないだろう。だがライル自身が耐えられなかった。どう話して聞かせる? 兄がいかに優秀だったか? 俺がいかに劣っていたか? 双子だからと常に比べられ、双子なのに何ひとつ兄に勝てず、周りの視線に耐えかねて家を飛び出したのだと、いっそ正直に打ち明けようか? ――考えるだけで、胸の奥がひどく醜く澱んでいくのが判った。
それなら、嘘をついたほうがずっと楽だ。
どうせこの女には、それを見破る術はないのだから。
「……それでも、」
意識せず、強く力を込めていた腕の中で、彼女の声が響く。
「あなたは、お兄さんと同じマイスターになった」
「……ああ」
ライルは苦笑する。
何の因果なのかね、兄さん。
カタロンの任務の為でなければ、たとえ同じようにスカウトを受けたとしても、おそらく自分はここには来なかっただろう。そのカタロンに入ったのは、兄とは関係ない、他ならぬ自分自身の意志によるものだ。なのにその道の先にすら、結局は兄の背中があった。それが当然であるかのように。俺には兄を決して追い抜けないのだと宣告するかのように。
だが、兄の立場を利用する形であっても、己は己の意志でガンダムマイスターになった。
兄を真似る為ではなく、自分の目的を果たす為に。
兄さんが居た「過去」じゃなく、
俺達が生きる「未来」のために。
ただ黙して肩を抱くライルに、彼女はしばらく返答を待っていたようだったが、やがて小さく吐息を漏らした。顔を上げる気配がしたので、ライルは腕の力を解く。こちらと同じ位置まで顔を持ち上げた彼女は、至近距離からライルを見つめ、そして柔らかく微笑んだ。
「会ってみたかったわ、あなたのお兄さんに。でも」
常備灯の僅かな光を受ける紅い瞳は、
とても、きれいで。
「――わたしには、ライルがいればいい」
「――――」
そう優しく告げられた時――ライルは、赦されたと思った。
ついに自由になれた気がした。
兄と己を比べ続け、妬み続けた、自分自身の心から。
***
彼女がイノベイターと関係しているのは判っていた。
彼女がふいに五感の一切を閉じたように表情をなくし、その後しばらくして敵襲が来ることにも気付いていた。呆ける際に金色に光る虹彩が、照明の反射などではないことも。それを報告しなかった理由はただひとつ――当たり前だ、報せれば彼女は殺される。そうなることを何としても避けたかったのだ。
だってようやく手に入れたんだ、
兄さんから与えられるのでも、兄さんのおこぼれでもない、俺の為のものを、俺の意志で!
何でそれを奪われなきゃならない。
兄さんは何もかも全て手に入れたのに。
顔も声も何もかも同じ双子なのに、俺には惚れた女ひとり救うことさえ出来ないのか。
――いいや、まだ殺さなきゃならないと決まった訳じゃない。
彼女を利用するものを――アロウズもイノベイターも全て叩き潰せば、彼女は解放される。彼女がたとえ何者だろうと、そんなことは関係なくなる。あいつはずっと俺の側に居るべきなんだ。そうして兄さんじゃなく俺を見るんだ。あの心地良い瞳で、ずっと、ずっと!
なあ、お願いだ、アニュー。目を覚ましてくれよ、頼むから、
(おれのそばに、いてくれよ)
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